誘導機や同期機の回転磁界とトルクの解析である
■電機子コイルによる回転磁界
誘導機や同期機の電機子コイル電流による磁界が、空間的に正弦波であるとする。電流も正弦波であるとすれば、3相による磁界は、
α=2π/3(=120°)
k=2π/λ
λ:空隙での磁界の周期長
f=周波数
ω=2πf
とすると、
B=sin(ωt)*cos(kx)
+sin(ωt-α)*cos(kx-α)
+sin(ωt-2α)*cos(kx-2α) ---(1)
■ここで
sin(A+B)=sinAcosB+cosAsinB --(2)
sin(AーB)=sinAcosBーcosAsinB --(3)
から、
sinAcosB
=(1/2)sin(A+B)+(1/2)sin(A-B) --(4)
さらにθを任意とすると、
sin(θ)+sin(θ+α)+sin(θ+2α)
=sin(θ)+sin(θ)cos(2π/3)+sin(2π/3)cos(θ)
+sin(θ)cos(4π/3)+sin(4π/3)cos(θ)
=sin(θ)+sin(θ)(-1/2)+(√3/2)cos(θ)
+sin(θ)(-1/2)+(-√3/2)cos(θ)
=0 --(5)
である。
■すると
(1)式は、
B=(1/2)sin(ωt+kx)+(1/2)sin(ωtーkx)
+(1/2)sin(ωt+kxー2α)+(1/2)sin(ωtーkx)
+(1/2)sin(ωt+kxー4α)+(1/2)sin(ωtーkx)
=(1/2)sin(ωt+kx)+(1/2)sin(ωtーkx)
+(1/2)sin(ωt+kxー2α)+(1/2)sin(ωtーkx)
+(1/2)sin(ωt+kxーα)+(1/2)sin(ωtーkx)
=(3/2)sin(ωtーkx) ー--(6)
(2)式は空隙上を回転する正弦波磁界である。
速度vは、
v=ω/k=f*λ
■空間的、時間的に高調波がある場合の同機電動機トルクについて
電機子コイル電流による磁界の空間波形(正弦波)に高調波が追加された場合を考える、また、回転子である電磁石もしくは永久磁石による空隙磁界の正弦波の空間波形に高調波が追加されたある場合、それによる電機子コイルの誘起起電力時間波形には高調波が出る。其れについても考える。
そこで、電機子コイルによる磁界の空間波形(基本波の波数をkとする)にnkの高調波、周波数ωの電機子コイル電流にmωの高調波が出ているとする。すると磁界は、
B=(sin(ωt)+a*sin(mωt))*(cos(kx)+b*cos(nkx))
+(sin(ωt-α)+a*sin(mωt-mα))*(cos(kx-α)+b*cos(nkx-nα))
+(sin(ωt-2α)+a*sin(mωt-2mα))*(cos(kx-2α)+b*cos(nkx-2nα))
=sin(ωt)*cos(kx)
+sin(ωt-α)*cos(kx-α)
+sin(ωt-2α)*cos(kx-2α)
+b*sin(ωt)*cos(nkx)
+b*sin(ωt-α)*cos(nkx-nα)
+b*sin(ωt-2α)*cos(nkx-2nα)
+a*sin(mωt)*cos(kx)
+a*sin(mωt-mα)*cos(kx-α)
+a*sin(mωt-2mα)*cos(kx-2α)
+a*b*sin(mωt)*cos(nkx)
+a*b*sin(mωt-mα)*cos(nkx-nα)
+a*b*sin(mωt-2mα)*cos(nkx-2nα)
---(7)
ここで(7)式各部分を変形する。
ここで、Nが0か3の倍数以外では、
sin(θ)+sin(θ+Nα)+sin(θ+2Nα)=0 --(8)
に注意して変形する。
①
sin(ωt)*cos(kx)
+sin(ωt-α)*cos(kx-α)
+sin(ωt-2α)*cos(kx-2α)
=(1/2)(sin(ωt-kx)+(1/2)sin(ωt+kx)
+(1/2)sin(ωt-kx)+(1/2)sin(ωt+kxー2α)
+(1/2)sin(ωt-kx)+(1/2)sin(ωt+kxー4α))
=(3/2)sin(ωt-kx) ---(9)
速度v=λ*f
②
b*sin(ωt)*cos(nkx)
+b*sin(ωt-α)*cos(nkx-nα)
+b*sin(ωt-2α)*cos(nkx-2nα)
=(1/2)b(sin(ωt-nkx)+(1/2)sin(ωt+nkx)
+(1/2)sin(ωt-nkx+(nー1)α)+(1/2)sin(ωt+nkxー(n+1)α)
+(1/2)sin(ωt-nkx+2(n-1)α)+(1/2)sin(ωt+nkxー2(n+1)α))
(n-1)、(n+1)が3の倍数なら存在し、
=(3/2)*sin(ωt-nkx) ---(10)
か、
=(3/2)*sin(ωt+nkx) ---(11)
速度vは、
v=f*λ/n
か、
v=-f*λ/n
③
a*sin(mωt)*cos(kx)
+a*sin(mωt-mα)*cos(kx-α)
+a*sin(mωt-2mα)*cos(kx-2α)
=(1/2)a(sin(mωt-kx)+(1/2)sin(mωt+kx)
+(1/2)sin(mωt-kxー(m-1)α)+(1/2)sin(mωt+kxー(m+1)α)
+(1/2)sin(mωt-kxー2(m-1)α)+(1/2)sin(mωt+kxー2(m+1)α))
(m-1)、(m+1)が3の倍数なら存在し、
=(3/2)*sin(mωt-kx) ---(12)
か、
=(3./2)*sin(mωt+kx) ---(13)
速度vは、
v=m*f*λ
か、
v=-m*f*λ/n
④
a*b*sin(mωt)*cos(nkx)
+a*b*sin(mωt-mα)*cos(nkx-nα)
+a*b*sin(mωt-2mα)*cos(nkx-2nα)
=(1/2)ab(sin(mωt-nkx)+(1/2)sin(mωt+nkx)
+(1/2)sin(mωt-nkxー(m-n)α)+(1/2)sin(mωt+nkxー(m+n)α)
+(1/2)sin(mωt-nkxー2(m-n)α)+(1/2)sin(mωt+nkxー2(m+n)α))
(m-n)、(m+n)が3の倍数なら存在し、
=(3/2)*sin(mωt-nkx) ---(14)
か、
=(3/2)*sin(mωt+nkx) ---(15)
速度vは、
v=m*f*λ/n
か、
v=-m*f*λ/n
以上によって、m、nによって速度とその方向が違ってくることがわかる。
■考察
(9)~(15)式から時間、空間波形や時間波形に高調波が現れると、その回転速度や方向が基本波とは違ってくるので、同期速度で回転する回転子が受けるトルクは変動することがわかる。高調波の中には逆回転するものもある。いい換えると、電機子コイル電流による磁界の空間波形と回転子による磁界の空間波形が、それぞれで正弦波でないと同期速度で回転している回転子はトルク変動を受ける。
一方、電機子コイルの作る磁界は上記のように高調波がある場合、これによるコイルの誘導起電力、つまり自己誘導はどうなるか?この場合、高調波による誘起電力はコイル内で打ち消され現れない。これは、回転子(電磁石、永久磁石)による磁界についても同じで、空間波形に高調波があっても、基本波以外は打ち消されて現れない。
よって、端子電圧が正弦波なら、いかなる空隙磁界分布においても、コイル電流は正弦波であることになる。つまり、上記のように電流の時間波形は、いかなる場合も正弦波であり、高調波を考える必要はないことがわかる。
■結論
つまり、トルク変動に関係があるのは、電機子コイル電流による磁界の空間分布の正弦波からのズレのみであることがわかる。回転子(電磁石、永久磁石)による磁界は関係しない。これを分けて考えなければならない。