交流理論を適応してみる。図1の回路を計算する。
図1 解析回路
■通常の方法では?
まず、交流理論を使わないでやってみる。信号源Vは正弦波で、電流Iも正弦波であるとする。
V=A*sin(ωt) (1)
とする。
I=B*sin(ωt+θ) (2)
となるだろう。
図1の回路の方程式は、
V=R1*I+L1*dI/dt (3)
これに、上の正弦波の式を入れると、
A*sin(ωt)=R1*B*sin(ωt+θ)+L1*B*ω*cos(ωt+θ) (4)
これから、Bとθを求めなくてはいけない。これはむずかしい。
■交流理論
つぎに、交流理論でやってみる。
V=A*e^(jωt) (5)
I=C*e^(jωt) (6)
(2)式のθは複素数Cに入っている。(3)式は、
A*e^(jωt)=R1*C*e^(jωt)+jω*L1*C*e^(jωt) (7)
ここでe^(jωt)で割ります。すると、単なる係数Cについての代数方程式となってしまう。
A=R1*C+jω*L1*C
A=C*(R1+jω*L1)
C=A/(R1+jω*L1) (8)
ということになる。(8)式はAとCの位相差をも示している。つまりこれが(2)式のθに相当する。Aが実数なら、θはCの偏角である。
θ=ーtanー1(ωL1/R1)
ここで、tan-1はtan(θ)=aのときtan-1(a)=θの意味である。
電流Iの振幅|I|は、
|I|=A/((R1+jω*L1)の長さ)
=A/(√(R1^2+(ω*L1)^2))
となる。つまり、Iの振幅とVとの位相差θが求まった。
この場合、R1のインピーダンスはR1、L1のインピーダンスはjωL1として、抵抗計算をすればいいことになる。インピーダンスとは交流理論に出てくる電圧/電流を表す複素数を言う。そこには振幅と位相差の関係が示されている。
■図的開放
交流理論は図的な解法である。
図2 交流理論の図
上の問題を図で考える。交流理論は正弦波を図で考える方法である。そもそも正弦波とはωtという角速度でぐるぐる回る動径(フェイザ)を、たとえば図2でいえば、実数軸に射影したものである。交流理論ではこの動径の位置の座標を複素面上で考えるのである。
図2で、Vをまず実数軸上に考える。ここで、もしIも実数軸上にとれば、抵抗R1のこのIによる電圧とL1のIによる電圧は図2のようになる。この2つの正弦波の合成は、時間軸上、つまりこの図の実数軸への射影のみで考えると難しいが、動径で考えるとたやすい。つまり、図のようなベクトルの合成則に従う。つまり、おのおのの成分を足せばいい。これがR1とL1の直列回路に電流Iが流れたときの電圧である。この電圧がVに等しい条件でIを求めるのである。
すると、上の計算になり、Iの大きさとVとの位相差が容易に求まるのである。このように、正弦波をその動径(フェイザ)で考えることにより、さらにその動径を複素面に考え、複素数の演算則を利用することによって、正弦波信号の定常解の算出は容易になってしまう。どんなに複雑な回路でも、システマチックにできるようになる。
つまり、正弦波を2次元空間での位置と考えることによって、見通しをよくするのである。わけのわからないものでも、上から見ると簡単な構成であることがわかるのである。天才的なアイデアですね(^^
■正弦波の和の図的解法
図3 正弦波の和
図3にうおいて、正弦波の合成について考える。正弦波AとBは、位相差がθである。これを図の右の時間領域でみると難しい。しかし、左の動径(フェイザ)で見ると簡単になる。波形AとBの和は、動径AとBの和が生み出すものだ。
動径の角度のsinをとってから和を考える(図3の右)のではなく、動径(フェイザ)の段階(図3の左)で和をとってしまうのである。
これが交流理論の神髄である。動径の座標は複素数であるが、それをそれぞれ足し合わせた結果が和の動径(フェイザ)の座標となる。交流理論ではこの動径(フェイザ)のみを問題とする。
このようにすると、正弦波同士の和が簡単になるのである。時間波形で和を考えるのではなく、動径(フェイザ)で和をとるのである。